トレスポ映画が好きなら小説読んでTシャツも着たほうがいい

もしトレスポ映画が好きなら、小説も読んでTシャツも着たほうがいいです。

ダイアルをまわしているとき、誰かが俺の背中をかすめて通り過ぎた。俺は思わずびくっとしたが、振り向いてそれが誰だが確かめようとなどとは思わなかった。こんなところはさっさと出て、新しいお隣さんたちがどんなやつか知らないままですませたいもんだぜ。俺にとっちや、連中なんか誰ひとり存在してもいなかった。いるのはレイミーだけだ。硬貨が落ちた。電話に出たのは女だった。
 「もしもし?」鼻をすする音がする。夏風邪でもひいたのか、それともヘロイン中毒のせいか。
 「レイミーはいますか? マークですが」
 レイミーは、俺のことをこの女に話していたらしい。俺は女が誰かわからなかったが、向こうは明らかに俺を知っている。
 「レイミーはいません。ロンドンに行ってます」冷めた広がる、気が速くなるような距離だけしか。そしてこのバスは、着々とその距離を縮めている。
 一階の一番奥の座席に座った。バスはがらがらだった。
正面に座った若い女が、ソニー・ウォークマンで音楽を聴いていた。その、かわいかったかって? そんなこと、どうだっていいじやないか。ウォークマンってのは「パーソナル」ステレオのはずなのに、俺のとこまで音が聞こえてきた。デビッドボウイの曲「ゴールデン・イヤーズ」だ。
生きていてもしかたないなんて 言わないでくれ
エンジェル……
あの空をごらん 人生は始まり 夜はあたたかく
囗は昇ったばかり
 ボウイのアルバムは全部持っている。死ぬほど持っている。海賊版だって山ほどある。だが、ボウイの音楽なんか、いまはどうでもいい。マイケルーフォレスターのことだけしかアルバ厶を制作したことなんか、シングルを出したことすらただの一度もない、何の才能も持たないあの醜いろくでなしのことだけしか頭にない。シックーボーイは前にこんなことを、いっていた。誰かの